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北限の双体道祖神(宮城県医師会報 2002年5月号)

長野や群馬に多い男女二神をまつった双体道祖神は宮城県にはほとんどない。前任地の茨城県と同様 双体道祖神の希薄地域である。茨城県のまわり、千葉、神奈川、東京、埼玉、栃木、福島、群馬、山梨 、静岡、長野、岐阜、愛知、新潟などに様々の形で存在するするものだから、この少なさにはかなりの 奇妙さを感じた。茨城県の道祖神というと、例えば下妻の高道祖(たかさい)神社のような男根像を本 尊とするものや文字碑がほとんどである(この点は宮城県も同じ)。茨城に特徴的なものとしては「双 体地蔵」がある(写真1)。これは性別不明の地蔵像が並立したもので、お寺の境内や墓地周 辺に多く、普通の道祖神のように村境や道の分岐点にあるものではない。郷土史の中にはこれを「双体 道祖神」として記載しているものもあるが、もと土浦市博物館員の榎氏が主張しているように別物と見 るべきである。本稿で問題にしているのは江戸時代前後のもので、昭和、平成のものは除外しての話で ある。因みに双体道祖神で最古の年紀は永正2(1505)年であるが、あとからの作りものの疑いが あり、確かなものは群馬・倉淵村の寛永2(1625)年である(山田宗睦著「道の神」昭和47年、 淡交社)。元禄年間(1688~1704)あたりから増えだし、文化文政期(1804~29)に最 高潮に達する。

「双体道祖神」という名称は、伊藤堅吉氏が昭和36年に命名して定着したとその著書「綜集 日本 全土・性愛の石神 双体道祖神」(昭和57年、緑星社)で述べている。その前は「双立道祖神」とか 「浮彫双立像」(神野善治著「人形道祖神ー境界神の原像」平成8年、白水社)とか「二神併立像」( 芦田英一著「道祖の神々」昭和38年、池田書店)と呼んでいたようである。さて、この双体道祖神の 分布は既に述べたようにかなり特徴的で、本州の中央高地周辺と中国地方の一部(鳥取、岡山)に偏っ ている。倉石忠彦著「道祖神信仰論」(平成2年、名著出版)によると、この分布は、小正月の火祭り 、「同胞婚説話」、「洪水始祖説話」とかなりの相関関係があるということである。命名者の伊藤氏は 、分布の西限を愛知県三河地方、そしてその北限を新潟県の東北地方境としている。この分布形成には 信州高遠の石工集団が深く関わっている。時代的に見ても、戦国時代に築城に伴う石垣や社寺などの造 営に従事した石工たちが、泰平の世になって領主の庇護を受けられなくなり、民衆の需要に応えるよう になった。特徴的分布のもう一つの原因としては、双像の一部は性的に露骨な造形であるため、為政者 に忌憚され撤去をうけ消失した可能性があげられる。水戸藩主徳川光圀や備前藩主池田光政の厳しい宗 教政策により淫祠多数が廃棄処分されたという記録がある。それでも水戸市中丸地区に唯一、安永3( 1774)年の紀年銘がある祝言像の双体道祖神が残っている(写真2)。杉田玄白、前野良 沢らの「解体新書」が出た頃のものである。このように分布の特異性には、石工系譜の違い、信仰系統 の違い、為政者の宗教政策などが複雑に絡み合っているようである。

果たして宮城県には双体道祖神はあるのであろうか?

その答えは庄司 豪著「昏れの神々ーみやぎの道祖神ー」(平成10年、けやきの街出版)で得られ た。太白区秋保町長袋にある向泉寺の山門手前の小さな広場にあるのがそれである(写真3) 。向泉寺は元享元(1321)年の開山で、もとは天台宗のところ天正元(1573)年曹洞宗に改め ている。像は高さ50センチ、石材は礫岩様、古くは見えるが年紀がないので江戸時代のものか不明、 住職は「先々代」からあると言っている、と先の本には書かれている。しかし、当地に行って住職の奥 さんや近くの石材店主に訊いた限りではそれほど古くない印象を持った。県内約200個ある道祖神の 探索をしている、インターネットで知り合った道祖神マニアの友川氏も同意見である。もしこれが江戸 期のものであれば北限の双体道祖神と言っていいが、以上の事情で確定は出来ない。

今のところ福島市方木田にある双体道祖神が北限という他はない。岩崎敏夫著「村の神々」(昭和4 3年、岩崎美術社)によると、この道祖神は現在も信仰がなくならず、自動車の運転手も「毛が無い」 、「怪我ない」の縁故から参詣し、婚礼の時嫁婿はこの社の前の道路を通らないとか、村の子供達が奉 納の道祖神さまを持ち出して遊んでいるのを見た某は、「この罰あたりめ」と子供を叱って取り上げ堂 内に納めたところ、夜中に神託があって戒められた、道祖神は子供が好きだという話などが伝えられて いる。

写真1:双体地蔵
写真1:双体地蔵
写真2:水戸・双体道祖神
写真2:水戸・双体道祖神
写真3:秋保・双体道祖神
写真3:秋保・双体道祖神

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